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【開催報告】 「Catering for me!」の料理家たちが旅するテロワールウィーク trip.01

2022.02.10

左から安田花織氏(ヤスダ屋主宰)、小桧山聡子氏(山フーズ主宰)、小沢朋子氏(Catering for me!発起人、モコメシ主宰)、アベクミコ氏(タイ料理家)、番匠郁氏(料理人、ライター)、中山晴奈氏(Catering for me!発起人、NPO法人フードデザイナーズネットワーク代表理事) ※撮影時のみマスクを不着用(撮影:たらくさ株式会社)

 

「にのへ型テロワール」を称することができるほど、この土地ならではの地質、気候、人、技によって日本を代表する伝統工芸、質の高い食材、血の通った地域文化が根付く二戸市。そのテロワールを旅する「テロワールウィーク」の第1回目となるtrip.01では女性料理研究家や料理人のプロジェクトチーム「Catering for me!」に所属する7名のプロフェッショナルにお越しいただき、1泊2日のツアーを実施しました。

「Catering for me!」とは、通常個人単位で生業を掲げる料理家やケータラーが所属して共に活動するプロジェクトチーム。2020年春の新型ウイルスの自粛をきっかけに始動し、今まで各人が行ってきた「人が集まって食事を楽しむ場」に代わって「各家庭で楽しめる食事」の提供を軸に、料理が生まれる前後のストーリーも含めた商品開発、販売しています。またコロナで困窮する生産者の素材を活用し、積極的に生産者と家庭をつなぐことも本プロジェクトの特徴のひとつ。

今回のテロワールウィークtrip.01では、参加される料理家の方々ひとりひとりに二戸の食材、それらを作る生産者や事業者を知っていただき、今後の取引につながる機会創出を狙います。

●二戸と言えばの郷土菓子「南部せんべい」をめぐる
イントロダクションとして東京からの新幹線内では、二戸が誇る郷土菓子、南部せんべいのセットを配布。焼き手や南部小麦の配合比、焼き方の違いを知っていただくために二戸市内複数の作り手による合計5種類ほどをご用意し、旅のしおりを片手に南部せんべいのバラエティに富んだ味わいを食べ比べていただくところから旅ははじまりました。

昔ながらのせんべい店へ
二戸に到着し、実際にせんべいが焼かれる様子を見学に向かったのは、金田一地区にある藤原せんべい。夫婦おふたりで早朝より火を熾し、二人がかりでなければせんべいを焼くことのできない息のあった昔ながらの作業風景を見学させていただきました。みなさんの関心が高く寄せられたのは「せんべいの耳」。南部せんべいを焼き上げ、成形する段階で手焼きの焼き器でくり抜かれた「耳」を初めて見る方がほとんどだったことから、店主の藤原ご夫妻への食べ方や素材についての質問が続き、小麦粉、水、塩と昔ながらの素材にこだわり、噛めば噛むほど味わいの増す昔ながらの堅焼きせんべいとの出会いとなりました。

(撮影:たらくさ株式会社)

せんべい製造のルーツと発展を訪ねる
続いて、より近代的な設備投資のもと、二戸を中心に親しまれる薄焼きの南部せんべいを製造する志賀煎餅へも訪問。代表取締役の足立裕さんにかつての南部せんべいを焼くお店のありかた、南部小麦にこだわる理由や原料の特徴などを教えていただきました。

「かつては各家庭で粉を挽いて、それを煎餅屋さんに持っていって焼いてもらっていました。持参された小麦粉のうち何割かを手間賃として我々はいただいて、それで煎餅を焼くと。そういう商売だったようです」

その時代を生きた人からの伝聞がなければ知ることのできない当時の煎餅屋の姿に一同興味津々。「南部せんべいを女性が焼いていることが多いのはなぜ?」「志賀煎餅ではどれくらの数量が1日で焼かれるのか?」「炭焼きの焼き機は今でも使えるのか?」など疑問は尽きず、話題は南部小麦へ。

「志賀煎餅で使用するのは、紫波町や花巻市で栽培された南部小麦です。一般的な小麦粉と比べたら、全然違います。噛んでいると甘みというか深みがありますし、香ばしさも違う。中挽きにすることで、さらに煎餅の焼きやすさもあります」

機械化が進んだ今なお、生地を機械に置く作業は人の手によるもの。その作業風景を見ながら、郷土の味わいに地元の方の存在がある尊さをしみじみと感じる一幕となりました。

●テロワール食材の生産者を訪ねる
折爪三元豚「佐助」を訪ねる
久慈ファームでは社長の久慈剛志さんに折爪三元豚佐助の生産背景、約200〜300万年前の地層から採取された炭化植物を配合した飼料、豚肉本来の味にこだわったとろける旨み、一般的な豚肉に比べて融点が2〜3度低い脂による美味しさなどを教えていただきました。

(撮影:たらくさ株式会社)

紹介映像を交えたレクチャーでは、畜舎が床暖房による温度管理や、飼育場の床をスノコにすることで排泄物と生育スペースを合理的に分別する方式、餌場と水場をブロックに分けた通過点に体重測定器を設置していることなど、豚の理想的な生育環境とともに理にかなった管理を実現させていることも学びました。

一般流通にはのらないリアルな食材
「スーパーに行くとどんな内臓もレバーとしてひとまとめにされてしまってどれかわからない。うちは朝一番、工場がきれいな状態で屠畜してもらうので内臓もきちんと細かく分けて、ちゃんと名前をつけて出荷できるんです」

(撮影:たらくさ株式会社)

久慈ファームの一貫した生産体制だからこそ食すことのできる部位があることを学んだ後、特別に加工工場に入り、鮮やかな手捌きで精肉されていく過程を見学。1匹の豚が内臓だけでなく頭部に至るまで丁寧な手作業であますところなく捌かれる様子や、シャルキュトリーとして幅広い商品に加工される様子を実際に見ることができました。

最後に佐助豚と熟レ鶏の様々な部位、佐助豚を使用したシャルキュトリーを試食。そして、久慈社長や社員のみなさんには、韓国と日本にルーツをもち、土地に根付く食文化や食の知恵を自らのレシピに落とし込む料理やケータリングを展開する安田さんが商品化した「三陸干し海老とエゴマの豚餃子」、「熟レ鶏と蓮根の柚子餃子」を試食いただきました。(安田さんは佐助豚を使った「佐助豚と青山椒のリエット」、「佐助豚軟骨と干野菜のチム」なども展開)

「久慈ファームさんは欲しいタイミングで欲しい部位が手に入れられない状況でも、代わりになる部位をご提案くださったりとなにかと融通を利かせてくださる。いつもとても助かっています」と、テロワールウィーク trip.01の実施以前より、長らく個人的な取引があった安田さんからご自分の実体験を交えてコメントいただく一幕も。

(撮影:たらくさ株式会社)

実際に注文するにあたってのオーダーシートを配布し、ビジュアルと品目が併記されたその見やすさから「これは是非注文したい!」「眺めているだけでレシピが思い浮かぶ!」など、料理家視点でのコメントもいただきました。

ホワイトアスパラガス「白い果実」を訪ねる
飲食店や産直、自社直販サイトのみに販路を限定する久慈ファームと同じように、その多くは県内で流通するホワイトアスパラガス「白い果実」を栽培する馬場園芸さんでは出荷前のルッコラやほうれん草を実食させていただき、土壌づくりや地域の雇用創出を交えながら新たな商品開発、集客に関するアイディアをお聞きしました。

「うちの野菜は味が濃いってよく言われます。ほうれん草にしても、えぐみが少なくてファンの方からは火を通すのがもったいないという声も。魚を発酵させた有機肥料はアミノ酸成分が高い分、ホワイトアスパラ含めそれが野菜の甘み、うまみにつながっていると思います」

(撮影:たらくさ株式会社)

訪問時点ではまだホワイトアスパラガスの栽培は始まっておらず、収穫後に残された根っこと土壌を前にしたレクチャーでしたが「今は根っこが一番栄養を蓄えている状態」との説明を受け、メンバーからは「ぜひ実食してみたい」との声が。根を試食させていただくと、漢方薬に使われる生薬を思わせる味わいから「これもレシピに使えるのでは?」と研究心に火がつき、アイディアの交換会がその場で生まれていました。

風土が生み出した雑穀文化を学ぶ
生産者訪問の合間には、農産物直売所「ふれあい二戸」へ。ここでの楽しみのひとつは、小麦をベースとした創意工夫あふれる郷土おやつの展開。小麦だけでも、きんかもち、くしもち、てんぽと姿かたちの異なるおやつがずらり。それらを並べて食べ比べてみれば、「原材料に使われているものは南部小麦なのか」「日常的に家庭で作るものなのか」「調理工程はどのようなものか」など、あらゆる討論に。居合わせた地元のおばあちゃんも会話に参加して、これらのおやつが地元で食されるシーンについて教えてくれることも。

(撮影:たらくさ株式会社)

そんな素材に対する興味の尽きない皆さんをお連れしたのは、雑穀の栽培を手掛ける上野剛司さんのもと。剛司さんに雑穀の基本情報や栽培における現状について貴重なお話をお伺いし、さらにお母さまの手ほどきを受けながらたかきびの粉を使った郷土おやつ「へっちょこ団子」作りに挑戦。

「昔はお祝いや特別のときに食べていました。お砂糖って高かったから、そういうときでないと食べられなかったのね。米粉とかを使うこともあります。うきうき団子、なべっこ団子とも言うんですよ」。

粉と水の比率や熱湯を一気にいれてこねること、小豆汁とよくからむように真ん中をかるく凹ませることなどを教わり、茹で上がったへっちょこ団子を実食。たかきびの風味とともにするっと食べれてしまうやんわりとした食感が好評。基本的には食米に混ぜて食べることが多かったであろうという上野さんの推測に加え、その栄養価の高さから使いようがいくらでも考えられることから「自分のレシピに使ってみたい」との声が続きました。

(撮影:たらくさ株式会社)

バラエティ豊かなりんごを食べ比べる
権七園の中里さんにご協力いただき、おぼない旅館にてぐんま名月、大夢、おいらせ、はるか、サンふじ、紅いわてのなど市場流通品種である6種に加えて、新品種3種の食べ比べも実施。糖度の低いものから高いものへと食べ進めるなどプロフェッショナルの視点から、各人の個人的な好み、調理する上での加工法やアイディア、ジャンルごとの展開の可能性などを挙げていただき、中里さんへの参考資料として意見をまとめたものを共有しました。

上記の行程以外にもおぼない旅館でのテロワールプランの実食、金田一温泉郷の散策、滴生舎や浄法寺歴史民俗資料館における漆文化について学んだ今回の旅。

参加された皆様は食材そのものの探究のみならず、その食材が二戸に根付いた背景や地理的条件、料理名の由来、料理のルーツの追求など多角的な視点から食に対する学びを深められていました。知れば知るほど見れば見るほど新たな質問が生まれ、現場の生きた知恵や知識に裏付けられた回答からさらなる質問が続く。

食材にただ手を加えるだけではなく、地域性や土地由来の文化までも内包したどのような料理が彼女たちから生み出されるのか、またどのような関係が維持構築されていくのか。今後の期待が高まります。

■開催概要
開催日:2021年11月25日〜11月26日(1泊2日)
・1日目工程
11:50 二戸駅集合
12:15 男神女神岩展望台見学
12:40 ふれあい二戸見学
13:30 久慈ファーム見学
16:00 浄法寺歴史民俗資料館見学
16:35 滴生舎見学
17:40 おぼない旅館到着
18:00 試食会(二戸で見つけた雑穀やりんごなどを簡単に調理し、試食)

・2日目工程
8:30 金田一温泉郷散策
9:20 藤原せんべい見学
9:50 志賀煎餅見学
11:10 馬場園芸見学
12:20 雑穀レクチャー(上野さまとともにへっちょこ団子の調理)
14:20 なにゃーと見学
15:00 解散

■参加者概要
<Catering for me!(Catering for me!)>
個々で活動している料理家やケータラーに日本全国の食材をつなぎ、家庭で気軽に楽しめるお惣菜に加工、冷凍でお届けするプロジェクト。
2020年春の新型ウイルスの自粛期間より、「人が集まって食事を楽しむ場」を提供してきた料理家やケータラー、そして料理に欠かせない食材を作る生産者が厳しい状況に追い込まれる中、一期一会で出会った食材を使って料理をしたい、そして家で過ごす人たちに届けたいと考えるところから活動を開始。料理だけではなく、それにまつわるストーリーも含め食事を楽しむ工夫も併せて提供する

<参加メンバー>
・中山晴奈
Catering for me!発起人
NPO法人フードデザイナーズネットワーク代表理事
フードデザイナー
・小沢朋子
Catering for me!発起人
モコメシ 主宰
フードデザイナー
VISION GLASS JP 代表”
・小桧山 聡子 山フーズ 主宰
・アベクミコ タイ料理家
・安田花織 ヤスダ屋 主宰
・番匠郁 ライター、料理人