農と湯がともにある癒しの郷
二戸のテロワールを味わう旅の拠点とするのに最適なのは、市の東北隅に位置する金田一温泉郷。馬淵川のほとりに1626年(寛永3年)から続き、江戸時代には南部藩の指定湯治場となり、マイルドな肌あたりの泉質で皮膚病への効能があるとされ、武士たちが湯治に訪れた記録が残されている。
もともと10つの源泉があったが、現在使われているのは4つ(大湯、玉の湯、金栄の湯、黎明の湯)。4つの源泉からなる宿の湯は、日帰り入浴が可能。それぞれの湯をはしごしてみるのも良い。
古くから農業を基盤にしてきたエリアであり、現在でも温泉宿のまわりに田畑や果樹園を見ることができる。温泉郷のゲートをくぐって一面に広がる稲田で育つのは、岩手県のオリジナル品種「いわてっこ」や「きらほ」、そして地酒・南部美人の原料となる酒米「ぎんおとめ」。その炊きたてごはんやお酒を、季節ごとの地元食材とともに楽しむことこそ、テロワールを味わう旅の醍醐味だ。
6つの温泉宿からなる小さな温泉郷を歩いてみれば、さまざまな発見がある。温泉宿の近くの観光農園では、夏のブルーベリー摘み、秋のりんご狩りなど季節ごとの体験を楽しみ、生産者に出会うことができる。
動物や植物などの遺骸を核として凝結した球体の化石「ノジュール」が現存する馬淵川の河畔、芥川賞作家である三浦哲郎ゆかりの家、出会った人に幸運をもたらす存在として伝えられている座敷わらしを祀る神社、老舗の南部せんべい店と、文化と出会う散策が楽しい。
写真:安彦幸枝、tarakusa、二戸市